モバイル機器の急激な普及を始めとする技術の発展とともに、「ヘルスケア」分野は、成長著しい分野としてますます注目度が高まっています。

しかし、「ヘルスケア」は人の生命にかかわる分野であるからこそ、法規制の内容が厳しい側面もあり、そのため、関連する法規制やその特性を踏まえた適切なサービスを設計する必要があります。

ヘルスケア分野では、医師法、医療法、薬剤師法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法。従前薬事法と略されていた法律が名称も含めて改正されたことにより、薬機法と略されるようになりました。)など、様々な法律が関連してきます。また、ヘルスケア分野では、厚生労働省からの通達に従った運用がなされる傾向が強くありますので、このような通達にも配慮する必要があります。

そこで、今回は、4回にわたってヘルスケアベンチャーにおいて法律上よく問題となるポイントを紹介していきます。

前回はこちら。

医薬品をインターネットで販売するには

④特定販売の要件とは

医薬品のインターネット販売が解禁された!ということをご存知の方は多いのではないでしょうか。

これまで第3類医薬品以外は、インターネットで販売することは認められていませんでした。

しかし、ケンコーコム社が提起した訴訟の最高裁判決において、一般用医薬品のインターネットによる通信販売を一律に禁止する規定は違法であるとの判決が言い渡されたことを踏まえ、法令が改正され、インターネット上で販売できる医薬品の範囲が拡大されました。

記の改正は特にEC関連のビジネスを行っている会社には大きなチャンスにも思えます。しかし、薬機法は、特定販売について、しっかりとしたルールを定めています。
ここでは、特定販売のルールについて見ていきましょう。

まず、誰が特定販売を行うことができるのかというと、これは、薬局または店舗販売業の許可を得た者に限られています。つまり、実店舗をもっていることが前提になっているのです。特定販売は、実店舗を保有している者が行う販売方法の1つという位置付けに過ぎないということです。かかる許可を得る際に申請書に特定販売を行う旨を記載し届出を行うか、事後的に特定販売を行う旨の変更の届出を行う必要があります。

次に、特定販売が認められている医薬品は、一般用医薬品(第1類、第2類、第3類)に限られます。医療用医薬品や要指導医薬品については、人体に対する危険性が高く、副作用を引き起こす可能性があることから、薬剤師が対面で情報提供・指導を行って販売することが義務づけられており、インターネットなどで販売することはできません。

また、販売することができるのは、実際の店舗に貯蔵・陳列している製品に限られています。つまり、許可を得た薬局、店舗以外の場所にある倉庫などに貯蔵されている製品を販売することは認められていない、ということです。

さらに、広告を行う場合には、店舗の名称、店舗の写真、勤務している専門家(薬剤師・登録販売者)の氏名などをホームページなどに掲載しなければなりません。

以上より、医薬品のインターネット販売は他の物品よりもかなりハードルが高いと言えるため、かかるビジネスを行うことを検討する場合には、この点を考慮に入れて事業計画を策定するべきと言えるでしょう。

⑤特定商取引法も忘れずに

④は特定販売を行う場合の薬機法上のルールになります。

もっとも、特定販売を行う場合に適用されるのは、薬機法上のルールに限られません。インターネットにより特定販売を行う場合、当該販売は特定商取引法上の「通信販売」に該当するため、特定商取引法上の特定販売に関する規制に服する必要があります。

詳細については、特定商取引法ガイドをご確認いただければと思いますが、例えば、ECサイトであれば、いわゆる、「特定商取引法に基づく表示」が必要となります。

また、医薬品の販売に限らず、インターネットを利用して消費者相手に有料サービスを提供する場合には、同様に通信販売として特定商取引法の適用対象となりますので、インターネットを使用してヘルスケア関連のサービスを提供する場合には特定商取引法の適用については常に注意を払うようにしておきましょう。

ソフトウェアも要注意、「医療機器プログラム」として規制対象に

⑥薬機法における医療機器とは

従来はソフトウェア部分のみでは規制対象とならず、ハードウェア部分に組み込まれた形でのみ規制対象となっていました。

しかしながら、法律改正に伴い、ソフトウェアも「医療機器プログラム」として規制対象となりました。

医療機器を「製造販売」(=①自ら医療機器を製造し、または他の製造業者に委託して製造(製造等)し、販売すること、および②医療機器を輸入し、販売することを意味します。)する場合、薬機法に基づく「承認」と「許可」の2つが必要となります。

つまり、医療機器を製造販売するためには、まず、その医療機器を製造販売しようとする者がその医療機器の製造や品質管理を適切に行い、また製造販売後の安全対策を実施するのに必要な資格、能力を有しているか審査を受けて製造販売業の許可を受け(=「者」の許可)、次にその医療機器の品質や性能、安全性などについて審査を受ける(=「物」の承認)必要があります。

さらに、医療機器を業として製造しようとする製造業者は、製造所ごとに製造登録を受けなければならないことになっているため、医療機器を自らの製造所で製造しようとする製造販売業者は、製造販売業の許可とともに、その製造所について製造登録を受けなければなりません。医療機器プログラムの場合、その設計を担当する製造所について、登録が必要となります。

また、プログラムの内容によっては、医療機器プログラムを業として提供するにあたり、許可や届出が必要となります。

医療機器を取り扱う場合には、上記のような許可等が必要となりますが、医療に関するプログラム全てが医療機器として取り扱われるわけではありません。

医療機器の対象となるのは、①診断用プログラム、②治療用プログラムおよび③予防用プログラムとなります。

ただし、「副作用又は機能の障害が生じた場合においても、動物の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないもの」は、医療機器の範囲から除外されていますので、プログラムの医療機器該当性を判断するにあたっては、この影響を考慮することが必要となります。

そして、プログラムが無体物であることも踏まえ、その医療機器の該当性を判断するにあたっては、①プログラム医療機器により得られた結果の重要性に鑑みて疾病の治療、診断等にどの程度寄与するのか、②プログラム医療機器の機能の障害等が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれ(不具合があった場合のリスク)を含めた総合的なリスクの蓋然性がどの程度あるかを考慮すべきもの、と考えられています。

以上を踏まえ、医療機器に該当すると考えられるプログラムの代表的なものとして、「医療機器で得られたデータ(画像を含む)を加工・処理し、診断又は治療に用いるための指標、画像、グラフ等を作成するプログラム」、「治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム(シミュレーションを含む)」があげられ、一方、医療機器に該当しないと考えられるプログラムの代表的なものとして、「医療機器で取得したデータを、診療記録として用いるために転送、保管、表示を行うプログラム」、「データ(画像は除く)を加工・処理するためのプログラム(診断に用いるものを除く)」、「教育用プログラム」、「患者説明用プログラム」、「メンテナンス用プログラム」、「院内業務支援プログラム」、「健康管理用プログラム」および「一般医療機器(機能の障害等が生じた場合でも人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないもの)に相当するプログラム」があげられます。

それぞれの具体例については、通知(「プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について(薬食監麻発1114 第5号 平成26年11月14日)」)で示されていますので、開発・提供予定のアプリケーションが医療機器に該当しないか、事前に確認するようにしましょう。

専門家:長尾 卓(AZX総合法律事務所 パートナー弁護士) 
ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。趣味は、バスケ、ゴルフ、お酒。

専門家:小鷹 龍哉(AZX総合法律事務所 弁護士)
弁護士になって以来、適法性チェック、各種契約関係法務、ファイナンスサポートなどを通じて、ウェブサービス、スマートフォンアプリサービス等をメインとするベンチャー企業の挑戦を幅広くサポートしている。特にファイナンスに強い。

ノマドジャーナル編集部
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